戦前の銘仙のきものを頂きました

当店会長の亡くなった妹と同級生という三口新町の市川様から、もう着ないのでと戦後間もない頃に誂えられた銘仙のきものと洗い張りをした状態のもの、村山大島の計4点を当保存会に寄贈くださいました。

昭和4年生まれの市川様はお母様を思い出しながら、この銘仙についてお話下さいました。
女で一つで子供を育ててきたお母様のご苦労と、小さいながらも料亭の女将というプライドを大切にしていたことがとても印象的でした。

「若いときの袖丈は八寸袖(1尺8寸)。しかし戦時中は皆、元禄袖(1尺ほどの丈で大きな袖の丸み)にしないといけない世相のなか、母は長い袖にこだわりました。」
「それでも詰めないとうるさい時は、切らずに縫いこんだものや。」
「好きな柄だったけど、生地がダメになってきて・・・」

このお話をお聞きした後に展示してある銘仙をよく観ると、なんとお話の通りの袖を縫いこんだ銘仙がありました。
感動です。コレクションを展示しながら、実はいろんな方から教えていただいているのです。有難いことです。

戦時中のモノの無い時代は十分な品質でないものが多くあります。それでも結婚する娘に何かしてあげたいという親御心にも感動します。

思い出の詰まった着物を手放されるときも、単に捨ててしまう人もいれば、形を変えて活かされる人色々です。
願わくば喜んで着て頂ける方にお譲りされるか、再生して生かせる方に譲られたら本望だなあと思う店主でした。